大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)48号 判決
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件食糧費、報償費の支出当時、泉州沖に建設中の関西国際空港への連絡橋は泉佐野市から同空港へ通じる連絡橋だけが計画され、それ以外の連絡橋の建築の計画は存在しなかったが、泉佐野市の南に位置する泉南市では同空港の経済効果が同市及びその周辺の地域にも波及することなどを期待して、泉南市から同空港への架橋(以下「南ルート架橋」という。)の建設及び同市を含んだ同空港の全体構想の策定を希望していた。そして、泉南市は、南ルート架橋や全体構想の実現に対する取組みや同空港建設に関する諸問題に対処するため、かねてより市長公室として空港対策室を設置し、同空港計画に係る調査の実施及び資料の収集に関すること、関係機関、関係部課等及び関係諸団体との連絡調整に関することを空港対策室長(部長職に相当する。)の専決事項とし(泉南市事務専決規程五条二項、同規程別表第二)、(款)総務費、(項)総務管理費、(目)空港対策費として予算を計上していた。
2 そして、空港対策室は、運輸省、大阪府などの関係上級官庁に対して、南ルート架橋推進について陳情を行ったり協議を申し入れたりするほか、必要な情報の収集などを行う一方、泉南市と同様に南ルート架橋の実現を希望していた和歌山市や和歌山県那賀郡岩出町などの付近市町村とともに関西国際空港連絡会を作り、協議を行ったり連絡を取り合うなどしていた。しかし、南ルート架橋の実現は一般には相当困難であることが予想されていた。
3 本件食糧費支出に係る会合の開催年月日、相手方、人数(泉南市側を含む。)、支出名目及び支出金額は別紙(三)記載のとおりであり、相手方は、大阪府企業局、和歌山市、岩出町、関西国際空港株式会社、国の関係機関の各職員や空港専門家等であって、会合の内容はいずれも同空港の全体構想及び南ルート架橋の推進を図る目的で開催された協議会、懇談会、意見交換会及び右会合に引き続いて意思の疎通を図ることを目的として設営された会食等である。
右会食等の場所は、別紙(三)の番号37を除きいずれも料亭、料理屋、旅館(食事のみ)であり、番号37だけがいわゆるバーである。
一件一人当たりの費用は、少額のもので七〇五〇円(番号5)から多額のもので二万〇七一八円(番号9)であり、会食の内容はいずれも料理、酒、ビールであって、芸妓、ホステス、コンパニオンなどが同席したものはない。なお番号37の一人当たりの費用は約九〇〇〇円である。
4 また、本件報償費支出の年月、相手方、支出名目及び支出金額は、別紙(一)のとおりであり、相手方に交付された物品はビール券及び清酒券である。相手方は、運輸省、自治省の職員、空港専門家その他関係機関の職員であり、空港対策室において、南ルート架橋の実現に向けて、右機関の職員等に相談を持ち掛けたり、有益な情報の提供や教示、示唆を得た際にその謝礼として交付されたものである。
一人当たりの費用は、少額のもので一人当たり九八一〇円(番号2)、多額のもので二万〇七〇〇円(番号3)である。
二 右事実に基づき、まず本件食糧費の支出の違法性について検討する。
1 地方自治法施行規則一五条二項別記(以下「別記」という。)に定める予算科目の(節)需用費、(細節)食糧費とは、一般に行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費であり、各種会議用(宴会を含む)、式日用茶菓、接待用茶菓等がこれに当たると解される。原告らは、本件食糧費の支出は、対外的折衝に要した費用であるから食糧費から支出することは違法であると主張する。
しかし、本件食糧費は、前記の協議会等の会合及びこれに引き続いて意思の疎通を図ることを目的として設営された会食等のために支出されたものであるから、空港対策室長の専決事項とされる関西国際空港関連の関係機関及び関係諸団体との連絡調整という行政事務の執行に伴う接遇のために支出されたものであり、食糧費から支出したことはそれ自体違法ではない。
2 ところで、地方公共団体が事務の遂行のために折衝する相手方に対して、社会通念上相当な儀礼の範囲に止まる接遇を行うことは、普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるが、それが社会通念上相当な儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金より支出することは許されないというべきであるところ、本件食糧費に係る会食等は、一人当たりの支出額は最も多額のもので二万円をわずかに越える程度のものであり、右事実に支出当時の物価水準、右会食等が開催されるに至った経緯とその目的、相手方の社会的立場、会食等の内容、場所などを総合して判断すれば、右程度の接遇を行うことが社会通念上相当な儀礼の範囲を逸脱するものとは認められない。なお番号37の接遇の場所はいわゆるバーであり、問題なしとしないが、その支出金額が一人当たり約九〇〇〇円であることや当日の接遇はその一か所で行われたに過ぎないことに鑑みるといまだ社会通念上相当な儀礼の範囲を逸脱したとまではいえないと解すべきである。
よって、本件食糧費の支出が違法であるとの原告らの主張は認められないから、その余の点について判断するまでもなく、右支出の違法を理由とする原告らの請求には理由がない。
三 次に本件報償費の支出について検討する。
1 別記に定める予算科目の(節)報償費とは、一般に役務の提供や施設の利用等に対する謝礼又は報償的意味の強い経費であり、その中の報償金は、講演会、研修会、研究会等の講師、助言者に対する謝礼金がこれに当たると解される。
本件報償費は前記のとおり、空港対策室が、関係上級官庁の職員や空港専門家等に対して、南ルート架橋の実現に向けて相談を持ち掛けたり、有益な情報の提供や教示、示唆を受けた際にその謝礼のために支出されたものであるから、前記の助言者に対する謝礼と同視し得るものであり、報償費として支出すること自体は違法とはいえない。
2 しかし、謝礼として交付された金品の額や内容が、普通地方公共団体に提供された役務に比して、社会通念上相当な範囲を逸脱している場合には、右謝礼は、当該地方公共団体にとって必要な経費とはいえず、これを支出することは許されないものというべきである。
この見地から本件報償費を検討すると、本件報償費は、一人当たり最高で二万〇七〇〇円のビール券等を交付するために支出されたものであるところ、相手方が国家公務員等であることや聴衆を前にした講演等を依頼したものではない点に鑑みれば、いささか多額に過ぎる感を否めず、右支出にはこれを肯認し難い面のあることは否定できないところである。しかし、南ルート架橋が関西国際空港の正規の計画には含まれておらず、一般的にも実現困難と見られていたところからして、南ルート架橋の実現に関する情報や教示は、泉南市にとっては貴重で有益なものであったと認められることに鑑みれば、右のような金額の謝礼を交付することは、いまだ社会通念上相当な範囲を逸脱しているとまでは断定し難いところである。なお、原告らはビール券を交付したことにつき、報償費の性格に反する旨主張するが、謝礼金の代わりにビール券等の商品券を交付することも特段社会通念を逸脱するものではないと解すべきである。
よって、本件報償費の支出が違法であるとの原告らの主張も認められないから、その余の点について判断するまでもなく、右支出の違法を理由とする原告らの請求には理由がない。
四 以上のとおり、原告らの請求をいずれも棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下村浩藏 裁判官 小野憲一 植村京子)